高松高等裁判所 昭和63年(ネ)168号 判決 1989年1月23日
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
1 被控訴人らは、各自、控訴人森實に対し、金三〇一九万七〇三五円及びこれに対する昭和六二年六月三日から支払いずみまで年五分の割合による金員を、控訴人森恵美子に対し、金二九一九万七〇三五円及びこれに対する昭和六二年六月三日から支払いずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
2 控訴人らのその余の請求を棄却する。
二 本件附帯控訴をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、これを五分し、その一を控訴人らの負担とし、その余を被控訴人らの負担する。
四 右一の1につき仮に執行することができる。
事実
一 申立
1 控訴について
(一) 控訴人ら
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 被控訴人らは、各自、控訴人森實に対し、四一九三万六九六八円及びこれに対する昭和六二年六月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を、控訴人森恵美子に対し、四〇八三万六九六八円及びこれに対する昭和六二年六月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員をそれぞれ支払え。
(3) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
(二) 被控訴人ら
(1) 本件控訴を棄却する。
(2) 控訴費用は控訴人らの負担とする。
2 附帯控訴について
(一) 被控訴人ら
(1) 原判決を次のとおり変更する。
(2) 被控訴人らは、各自、控訴人森實に対し、一五八〇万〇九三三円、控訴人森恵美子に対し、一四八〇万〇九三三円をそれぞれ支払え。
(3) 訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。
(二) 控訴人ら
(1) 本件附帯控訴を棄却する。
(2) 附帯控訴費用は被控訴人らの負担とする。
二 主張
次のとおり付加するほか、原判決事実摘示と同一(ただし、原判決六枚目表一行目の「同人」を「本件被害者」と訂正する。)であるから、これを引用する。
1 控訴人らの当審主張
仮に亡森俊博の逸失利益の算定につき、同人が当時勤務していた株式会社瀬戸内海放送(以下「瀬戸内海放送」という。)の平均給与を逸失利益算定の基準とすることが相当でないとすれば、賃金センサスにより大学卒男子の全年齢給与額を基準とすべきである。
2 被控訴人らの当審主張
本件慰謝料は、亡森俊博及び控訴人らの分を合わせて一五〇〇万円が相当である。
弁護士費用につき、遅延損害金の起算日を事故の日としたのは失当である。
三 証拠関係
原・当審各記録中の書証・証人等各目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 被控訴人奥山和也は、昭和六二年六月三日岡山県真庭郡勝山町神代九七の一先国道上において、普通貨物自動車(以下「加害車両」という。)を運転中、居眠り運転をして反対車線にはみ出して進行した過失により、折から同車線を進行してきた亡森俊博の運転する普通貨物自動車に加害車両を衝突させ、同人を脳挫傷等により死亡させたこと、被控訴人岡山臨港倉庫運輸株式会社(以下「被控訴会社」という。)は、本件事故当時、加害車両を保有し、これを自己のために運行の用に供していたことは当事者間に争いがない。
そうすると、被控訴人奥山和也は民法七〇九条により、被控訴会社は自動車損害賠償保障法三条により、本件事故により生じた損害を賠償すべき義務がある。
二 控訴人らは亡森俊博の両親で、その相続人であること、亡森俊博は昭和三五年二月二三日生まれで、本件事故当時、瀬戸内海放送に勤務していたことは当事者間に争いがなく、原審における控訴人森惠美子本人尋問の結果によると、亡森俊博は本件事故当時いまだ独身であつたことが認められる。
成立に争いのない甲第一号証、第一五及び一六号証の各一ないし三、当審証人多田羅重信の証言により真正に成立したものと認められる同第一二号証の一ないし三並びに原当審証人多田羅重信の証言によれば、瀬戸内海放送は、従業員八〇余名の優良企業であり、従業員の定年は役員を除き五七歳であること、従来から瀬戸内海放送の給与は民間企業全体の水準より高く、これは昭和六一年度における賃金センサスと瀬戸内海放送における平均賃金、モデル支給額、賃金支給の具体例からも窺えること、同年度における瀬戸内海放送の平均給与額は五五七万一三七八円であることが認められ、右認定に反する証拠はない。
ところで、右平均給与額は、その調査の対象となる従業員の数が少ないため、その年度における従業員の年齢構成等によつてその数値が変動し易いことなどからみて、これを亡森俊博の逸失利益の算定の基準とすることは適当でなく、前記認定のとおり、瀬戸内海放送の給与は民間企業全体の水準より高いことからみて、同人は、事故当時から五七歳の定年までの三〇年間は、少なくとも賃金センサス男子労働者、旧大・新大卒、企業規模計の平均給与を、定年後六七歳までの一〇年間は、同六〇歳ないし六四歳の平均給与を得べかりしであつたものと推認できるので、これらによるべきであり、生活費は、同人が独身であつたことにより、給与額の五〇パーセントとすべきである。
右生活費の控除につき、控訴人らは本件被害者は独身であつたとはいえ、既に二七歳で婚姻を間近にし、一家の支柱となることが確実視されていたものであるから右控除率は四〇パーセントが相当である旨主張する。しかし、仮に本件被害者について右事情があつたとしても、いまだ婚姻が現実となつていない以上、右婚姻を前提として生活費の控除率を定めるものは相当でない。
そして、賃金センサスは、本件事故時である昭和六二年度のものによることにする(なお、原判決は、亡森俊博の逸失利益の算定にあたり、事故前の年収額(三三八万二三九一円)を基準としている。瀬戸内海放送における同人の将来の昇給について、その具体的時期、金額等を確定することは困難であるが、昇給自体は確実であり、かつ、瀬戸内海放送の給与水準が前記のようなものであることからみて、逸失利益算定の基準を事故前の年収額とすることは相当でない。)
そうすると、亡森俊博の逸失利益は、五九七九万四〇七〇円となる。
5,364,200×(1-0.5)×18.029+6,330,100×(1-0.5)×(21.643-18.029)=59,794,070
諸般の事情を考慮し、亡森俊博の慰謝料は一五〇〇万円、控訴人らの慰謝料はそれぞれ二〇〇万円、控訴人森實が被控訴人らに求めうる葬儀費は一〇〇万円と認めるのが相当である。
控訴人らは亡俊博の逸失利益及び慰謝料を各二分の一ずつ相続しており、これに各自の慰謝料等を合算すると、控訴人森實が四〇三九万七〇三五円、同森恵美子が三九三九万七〇三五円となる。
控訴人らはこのうち、自賠責保険金二五〇〇万円(各自一二五〇万円)を控除した残額の支払いを求めているので、残額は、控訴人森實が二七八九万七〇三五円、同森惠美子が二六八九万七〇三五円となる。
控訴人らが控訴人ら訴訟代理人に本件訴訟の提起、追行を委任し、勝訴額の一割の報酬を支払う旨の約束をしていることは、原審における控訴人森惠美子本人尋問の結果により明らかであるところ、本件事案の性質、難易度、認容額等に鑑み、控訴人らが被控訴人らに対して求めうる弁護士費用は、控訴人ら各自につき二三〇万円が相当である(なお、弁護士費用についても事故の当日から遅延損害金を付すべきものと解するが、その額を定めるについては、被害者が弁護士費用について不法行為時から支払時までの間に生ずることのありうる中間利息を不当に利得することのないように算定すべきものである(最高裁判所昭和五八年九月六日第三小法廷判決・民集三七巻七号九〇一頁)から、支払時における弁護士費用額から中間利息相当額を控除して前記金額を定めた。)。
三 そうすると、被控訴人らは、各自、控訴人森實に対し三〇一九万七〇三五円、同森惠美子に対し二九一九万七〇三五円及びこれらに対するそれぞれ事故の日である昭和六二年六月三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による金員の各支払義務のあることが明らかであるから、控訴人らの本訴請求は、右限度において正当として認容し、その余は失当として棄却すべきである。
四 よつて、右と一部異なる原判決はその限度で不当であるから、本件各控訴に基づきこれを右のとおり変更し、本件各附帯控訴はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、九二条、八九条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 高田政彦 孕石孟則 松原直幹)